
NISに対する米国の制裁が発効-除外措置の延長認められず
10月9日、セルビアの石油・ガス大手であるセルビア石油産業(Naftna Industrija Srbije, NIS)は、米国による制裁の適用除外を定めた特別ライセンスが10月8日の期限切れをもって延長されなかったと発表した。これにより、ロシア資本が過半数を所有する同社の事業運営、特に燃料の調達に大きな支障が出る可能性が懸念されている。
NISは、ロシアのガスプロム・ネフチ(Gazprom Neft)が44.85%、ガスプロム(Gazprom)の実質傘下企業であるインテリジェンス社が11.3%の株式を保有しており、セルビア政府も29.87%を出資している。米国財務省の海外資産管理局(Office of Foreign Assets Control, OFAC)は、ロシアのエネルギー部門を孤立させる広範な取り組みの一環として、今年1月にNISを制裁対象に指定した。しかし、セルビアのエネルギー安全保障への影響を考慮し、これまで8回にわたり制裁の本格的な適用が延期されてきた。
NISはセルビア国内で唯一の製油所を北部パンチェヴォ(Pančevo)市に有し、その年間処理能力は480万トンに達する。同社は国内のディーゼルおよびガソリン需要の約80%を供給し、2025年上半期には国内自動車燃料市場で66%のシェアを占めるなど、セルビアのエネルギー供給において中心的な役割を担っている。
制裁適用を受け、NISは当面の対策を発表した。同社プレスリリースによれば、現時点では精製業務に必要な原油を十分に確保しており、国内328ヶ所のガソリンスタンドへの石油製品の供給も通常通り行われている。国民に対しては、燃料を買いだめする必要はないと呼びかけている。
決済システムに関しては、今後マスターカードやビザといった国際的なクレジットカードがNIS傘下のガソリンスタンドで利用できなくなった場合であっても、セルビアの国内決済カード「Dina」、現金、またはインスタント決済システム「IPS」での支払いは引き続き可能であるとしている。法人顧客向けの決済や卸売取引は、これまで通りセルビア・ディナール建てで継続される。
一方、原油の輸入ルートにも不透明感が出ている。NISは、クロアチアのアドリア海沿岸からヤナフ(Janaf)パイプラインを通じて原油の全量を輸入している。ヤナフ社は8日、米外国資産管理局(U.S. Office of Foreign Assets Control, OFAC)からNISへの原油輸送を10月15日まで継続する許可を得たと発表したが、それ以降もNISが原油の供給を受けられるかは定かではない。
NISは、セルビア政府や株主と協力して事態の打開に努めていると表明。また、今年3月に初めて提出し、9月に補足書類を提出した米財務省の特別指定国民(Specially Designated Nationals, SDN)リストからの除外申請について、引き続き米国側との協議を継続するとしている。しかし、NIS自身も、リストからの除外は「複雑で時間のかかるプロセス」であると認めている。
(アイキャッチ画像出典:Shutterstock)
この記事へのコメントはありません。