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セルビア大統領、NISロシア側株主へ50日以内の株式売却を要求―金融取引停止と製油所閉鎖の「Xデー」迫る中で事実上の最後通告

11月25日、セルビアのヴチッチ(Aleksandar Vučić)大統領は、臨時記者会見において、同国のエネルギー最大手セルビア石油産業(NIS)を巡る危機的状況について、具体的かつ切迫したトーンで語った。ヴチッチ大統領は、米国の制裁対象となっているNISのロシア側株主に対し、今後50日以内に第三者への株式売却契約をまとめなければ、セルビア政府が経営管理権を掌握し、「適正価格(best price)」でその株式を取得する準備があるという事実上の最後通告とも受け取れる発言を行った。

ヴチッチ大統領は、NISの「国有化」については可能な限り回避したいとの意向を示しつつも、セルビアのエネルギー安全保障が脅かされる事態となれば、あらゆる手段を講じるとの決意を表明した。ヴチッチ大統領はまた、ロシア側からセルビア政府に対して直接の株式売却の申し出はまだないと明かした上で、現在交渉を行っているとされるアラブ首長国連邦(UAE)やハンガリーといった「友好国」の潜在的買い手に対し、交渉をまとめるための時間的猶予を与える必要があると述べ、外交的な解決への期待を滲ませた。

出典:Tanjug News Agency official

事態の緊急性について、ヴチッチ大統領は具体的な数字を挙げて警鐘を鳴らした。ヴチッチ大統領は、NISが運営するパンチェヴォ(Pančevo)製油所は、米国による制裁免除(ウェーバー)が新たに認められなければ、あと4日で完全に操業を停止せざるを得ない状況にあると明らかにした。ヴチッチ大統領は、米財務省外国資産管理室(OFAC)から前日(24日)までにライセンスが発行されることを期待していたが、現状はOFAC側が45日から60日間の操業ライセンス付与を検討するため、さらなる詳細情報を求めている状況であると説明した。

また、ヴチッチ大統領は国民の不安を払拭するため、手元の燃料在庫についても詳細なデータを公表した。NISが保有する備蓄はディーゼル燃料5万5000トン、ガソリン5万トンであり、ライセンスが得られなくても12月末までは自社の給油所ネットワークへの供給が可能であるとした。さらに、国家備蓄としてディーゼル燃料18万5000トン、ガソリン約1万9000トンを確保しており、不足が生じた場合にはこれらをすべての卸売業者に開放することで、国内市場の安定を守り抜くと断言した。

現場の状況は切迫している。25日付のNISプレスリリースにおける発表によると、米財務省による制裁措置の結果、精製用の原油が枯渇したため、パンチェヴォ製油所は第1段階として「ホット・サーキュレーション(温間循環)」モードに移行した。これは、装置内の流体を循環させつつ温度を維持する状態であり、原油の供給が再開され次第、即座に操業を復帰できるようにするための措置である。NISは、このプロセスがセルビアの法律および厳格な環境・安全基準に則って行われていると説明している。また、製油所の稼働低下に伴い、石油化学子会社であるHIPペトロヘミヤ(HIP Petrohemija)も今後、操業停止の準備を開始する予定となっている。

さらに深刻な懸念として、ヴチッチ大統領は金融システムへの影響について踏み込んだ発言を行った。それによれば、セルビア中銀(NBS)およびNISと取引のある全ての商業銀行に対し、取引を継続すればOFACの二次制裁の対象となる可能性があるとの警告が発せられていることを明らかにした。

ヴチッチ大統領は「NISが操業ライセンスを取得できなければ、来週月曜日(12月1日)から、国内の銀行システムは間違いなくNISとの取引を停止する」と明言し、決済業務の完全な停止、カード機能の麻痺、信用供与の停止など、市民生活や経済活動に直結する深刻な事態への危機感を露わにした。一方で、米国側からは、OFACがライセンスの可否を決定するまでの間は、セルビアの銀行が二次制裁を受けないという「口頭での保証」を得ているとも述べ、水面下での緊迫した交渉の様子を詳らかにした。

(アイキャッチ画像出典:Shutterstock)

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