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セルビア政府、携帯通信大手3社に5Gライセンスを付与へ-各社には地方での電波インフラ整備を義務づけ

11月14日、セルビアの電子通信・郵便業務規制庁(Regulatory Authority for Electronic Communications and Postal Services, RATEL)は、国内で活動する携帯電話事業者3社すべてに対し、第5世代移動通信システム(5G)の展開に必要な周波数帯のライセンスを付与することを決定したと発表した。

今回の決定は、RATELが11月3日から7日にかけて実施した電波オークションの結果に基づくものである。RATELのプレスリリースによれば、入札プロセスは技術中立的な原則の下で行われ、694-790 MHz帯から3400-3800 MHz帯に至る複数の周波数帯域がGSMおよびIMT(International Mobile Telecommunications)システム用として割り当ての対象となった。

電波オークションには、国営のテレコム・セルビア(Telekom Srbija)、アラブ首長国連邦のエミレーツ・テレコム傘下にあるイェッテル(Yettel)、そしてオーストリアのA1テレコム・オーストリア・グループ(A1 Telekom Austria Group)の一部門であるA1セルビア(A1 Srbija)の3社が参加し、いずれも適正な入札を行った結果、希望する帯域を確保することとなった。

3社による落札総額は3億9万9430ユーロに達した。具体的な内訳として、テレコム・セルビアは約1億5万ユーロ、イェッテルは約1億3万ユーロ、A1セルビアは約1億2万ユーロのライセンス料を支払うこととなる。各事業者は、ライセンス付与決定の受領から15日以内に料金の50パーセントを納付し、残額については2026年6月30日までに支払うことが義務付けられている。

市場シェア42%超を握る最大手のテレコム・セルビアは、これまでも積極的な他社買収やコンテンツ強化で市場を牽引してきた。今回の5G展開においても、同社は都市部での圧倒的な通信速度の提供に加え、政府との連携によるスマートシティ構想の中核を担うことが予想される。一方、イェッテルとA1セルビアは、効率的なネットワーク運用と特定の顧客セグメント(法人向けソリューションや若年層)への浸透を重視しており、特にA1グループは欧州全体での知見を活かした産業用IoTソリューションの展開で差別化を図る公算が高い。

また、今回のライセンス付与条件には、現在通信カバレッジが不十分とされる特定の地方自治体における通信網整備の義務も盛り込まれた。テレコム・セルビアはクルパニ(Krupanj)やメドヴェジャ(Medveđa)など、イェッテルはリュボヴィヤ(Ljubovija)やゴルバツ(Golubac)など、A1セルビアはコシェリッチ(Kosjerić)やボリェヴァツ(Boljevac)など、それぞれ電波塔などのインフラ整備が遅れている地域や山間部を含む自治体での信号網整備を求められることとなる。これにより、これまでブロードバンド環境が不十分であった地域においても、2026年にかけて急速に通信インフラが高度化することが見込まれている。

RATELのデータによれば、人口約660万人のセルビアにおける携帯電話契約数は6月末時点で780万件に上り、市場シェアはテレコム・セルビアが42.36%、イェッテルが32.43%、A1セルビアが25.21%を占めている。各社によるライセンス料の初回納付が確認され次第、RATELは12月の第1週を目途に個別の周波数使用ライセンスを発行する予定である。これにより、セルビア国内において3社すべての通信事業者による5G技術を用いた商用サービスの本格的な提供が開始される条件が整うこととなる。


西バルカン各国の5G整備状況:先行するモンテネグロ・北マケドニア、追うアルバニア・セルビア、取り残されるボスニア

今回の決定により、セルビアは西バルカン地域における「5G空白地帯」からの脱却を果たすこととなるが、周辺国と比較するとその導入は後発組に属する。以下に、2025年11月時点での地域各国の整備状況を整理する。

  • モンテネグロ: 西バルカン地域における5G導入のトップランナーであり、2022年末には既に電波オークションを完了し、主要キャリア(Crnogorski Telekom、One Montenegroなど)が商用サービスを展開中である。2024年時点で人口カバー率は高く、既に「5G先進国」としての地位を固めつつある。
  • 北マケドニア: モンテネグロと同様に早期導入を果たしており、マケドンスキー・テレコム(Makedonski Telekom)とA1マケドニア(A1 Macedonia)が2022年から順次5Gサービスを開始している。2025年9月には、One Macedoniaがエリクソンと提携し、地域初となるスタンドアローン(SA)方式の5Gネットワーク構築に向けた合意を発表するなど、技術的な高度化フェーズに入っている。
  • アルバニア: 2024年11月末に主要キャリアによる5G商用サービスが開始されたばかりである。ボーダフォン・アルバニア(Vodafone Albania)等が主導し、ティラナを中心とした都市部での展開が進んでいるが、全国的な普及には数年を要すると見られる。
  • コソヴォ: IPKOなどの通信事業者がテスト運用や限定的な展開を進めており、2025年に入りネットワーク拡張が加速している。デジタルアジェンダに沿った法整備とインフラ投資が並行して行われている段階である。
  • ボスニア・ヘルツェゴヴィナ: 地域内で最も導入が遅れている。複雑な政治体制や規制の遅れが響き、2025年後半時点でも本格的な商用サービスの全国展開には至っていない「5G未踏の地」となっている。

(アイキャッチ画像出典:Shutterstock)

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