
アルバニア、EU加盟交渉における最後のクラスターの交渉を開始-全政策分野の交渉を1年余の期間で開始する記録的ペース
11月17日、アルバニアはブリュッセルで開催された欧州連合(EU)との第7回政府間会合において、EU加盟交渉における最後の政策分野群(クラスター)であるクラスター5「資源・農業・結束(Resources, Agriculture and Cohesion)」の交渉を開始した。これにより、アルバニアは6つの交渉クラスター(33の政策分野=チャプター)すべてについて交渉を開始したことになり、2024年10月の最初のクラスター交渉開始からわずか13ヶ月という記録的な速さでの達成となった。
「改訂交渉手法」によるEU加盟交渉
アルバニアに適用されている現在のEU加盟交渉方式は、2020年に導入された「改訂交渉手法(revised methodology)」に基づいている。これは、35の政策分野(チャプター)に分かれて行われていた従来方式の交渉を、関連分野ごとに6つのテーマ別の政策分野群である「クラスター」に再編したものとなっている。具体的には、クラスター1「基礎的事項(Fundamentals)」、クラスター2「域内市場(Internal market)」、クラスター3「競争力と包摂的成長(Competitiveness and inclusive growth)」、クラスター4「リーンアジェンダと持続可能な連結性(Green agenda and sustainable connectivity)」、クラスター5「資源・農業・結束(Resources, agriculture and cohesion)」、クラスター6「対外関係(External relations)」の6つとなっている。
この交渉手法の最大の特徴は、司法改革、汚職との戦い、基本的人権といった最重要分野を含むクラスター1「基礎的事項」を最優先としている点にある。このクラスター1は、加盟交渉プロセスにおいて「最初に交渉開始し、最後に交渉完了する」分野と位置づけられており、この分野での進捗が、他の全クラスターの交渉全体のペースを決定する仕組みとなっている。アルバニアは2024年10月にこのクラスター1を開始して以降、他のクラスターも順次開始し、今回、最後のクラスター5の開始に至った。
主要関係者による評価と今後の展望
交渉開始後の共同記者会見では、関係者からアルバニアの急速な進捗に対する高い評価と、今後の課題に向けた激励の言葉が述べられた。
アルバニア政府プレスリリースによれば、アルバニアのラマ(Edi Rama)首相は、「少し前まで不可能に思えたことが、今日ここで現実の作業計画となった」と歴史的な節目を迎えた感慨を表明した。同首相は、これまでの困難な道のりがアルバニアをより強く成熟させたと振り返り、「我々はここで政党や政治的見解を代表しているのではない。90%以上の国民がEU加盟を支持する、国全体を代表している」と述べ、EU加盟が国民的悲願であることを強調した。さらに、「ブリュッセルでは何も当然のことと思ってはならない。謙虚さと結果をもって応えるのみだ」と述べ、2027年までの交渉完了という目標に向け、改革の手を緩めない決意を示した。
欧州委員会(European Commission)のコス(Marta Kos)拡大担当欧州委員は、アルバニアを「EU拡大が持つ『変革の力』の最良の例であり、西バルカンの多くの人々にとってのインスピレーションだ」と最大限に賞賛した。特に、地政学的に不安定な情勢下で、アルバニアの外交・安全保障政策がEUと100%一致している点を「我々が信頼できるパートナーであることを示している」と高く評価した。一方でコス委員は、「全クラスターの交渉開始は素晴らしい成功だが、この交渉を『閉じる』ことこそが真の目標だ」と釘を刺し、特に「基礎」分野における司法改革、司法の独立、汚職対策、メディアの自由といった分野での継続的な努力が不可欠であると強調した。
また駐アルバニアEU代表部プレスリリースによれば、EU理事会議長国(デンマーク)を代表したビエア(Marie Bjerre)欧州問題担当大臣も、「13ヶ月ですべてのクラスターが開かれたのは記録的な速さであり、アルバニアの努力が結果として認められた証拠だ」と述べた。ビエア大臣はまた、「拡大はEUにとっても地政学的な優先事項であり、アルバニアの加盟はEU自身をも強くする」と述べ、拡大が双方にとって有益であるとの認識を示した。その上で、「次のステップは『基礎』分野で設定された中間ベンチマーク(interim benchmarks)を満たすことだ。改革の勢いを維持してほしい」と激励した。
全クラスターの交渉が開始されたことで、アルバニアのEU加盟プロセスは新たな段階に入った。今後の焦点は、最重要である「基礎」クラスターの中間ベンチマークを達成し、個別の交渉チャプターを実質的に完了させる「クロージング(交渉終結)」の段階へと進めていくこととなる。
(アイキャッチ画像出典:Shutterstock)







































































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