
RS議会がドディック氏側近を暫定大統領に任命し、違憲となったRS域内法も撤回-米国はRS与党政治家に対する一部制裁を緩和
10月18日、ボスニア・ヘルツェゴヴィナ(Bosnia and Herzegovina, BiH)の構成体であるスルプスカ共和国(Republika Srpska, RS)の議会は、ドディック(Milorad Dodik)前RS大統領の失職に伴い、11月23日に予定されている早期選挙までの暫定大統領としてトリシッチ=バビッチ(Ana Trišić-Babić)氏を任命した。またRS議会は同日、BiH国家レベルの機関と対立してきた複数の法律や決議も撤回した。米国務省はこれを「BiHの安定を確かなものにする行動」として歓迎している。
ドディック前大統領は今年8月、ボスニア紛争後の和平合意履行を監督する役割を担っている国際社会の上級代表(High Representative)であるシュミット(Christian Schmidt)氏の決定に従わなかったとして、BiH国家裁判所から禁固1年(後に罰金刑に変更)と6年間の公職追放という最終判決を受け、RS大統領職を解任されていた。
ドディック氏の解任に伴い、11月23日にRS大統領選挙が予定されており、ドディック氏率いる与党・独立社会民主同盟(Savez nezavisnih socijaldemokrata, SNSD)は、この選挙の後継候補として現RS内務大臣のカラン(Siniša Karan)氏を既に指名している。
18日夜の議会投票では、ドディック氏の長年の側近であり外交政策顧問を務めるトリシッチ=バビッチ氏が、賛成48票、反対4票で暫定大統領に選出された。ドディック氏率いるRS与党・独立社会民主同盟(Savez nezavisnih socijaldemokrata, SNSD)はドディック氏への忠誠を強調しており、ドディック氏自身も自らを依然「国民の意志による大統領」だと主張し、トリシッチ=バビッチ氏の任務は「形式的」なものだと述べている。一方で、トリシッチ=バビッチ氏は過去に上級代表事務所(Office of the High Representative, OHR)や米国国際開発庁(US Agency for International Development, USAID)での勤務経験があり、BiH外務副大臣(2010年~2014年)時代にはNATOとの協力交渉にも参加していた経歴から、野党からは「NATOのロビイスト」との批判も出ている。
議会はまた、これまでBiH国家レベルの機関との深刻な対立の原因となってきた複数の法律を撤回する決定を下した。RS議会プレスリリースによれば、これには、BiH憲法裁判所によって無効と判断された、RS内の国家資産の所有権をRS当局に帰属させる「不動産法」や、BiHの国家警察機関(SIPA)や検察庁のRS領内での活動を妨げる「BiH機関の法律不履行と活動禁止に関する法」、BiH憲法裁判所の決定不履行に関する法などが含まれる。さらに、上級代表の行動を批判し、国家レベルの司法機関を「違憲」と断じるなど、デイトン和平合意(Dayton peace accords)に関連した13の決議も併せて撤回された。
三頭制のBiH大統領評議会のセルビア系メンバーであるツヴィヤノヴィッチ(Željka Cvijanović)氏(SNSD副党首)は、これらの措置について、シュミット氏によって引き起こされた危機を乗り越え、「BiHの状況安定化に向けて差し伸べられた手である」と議会で説明した。これに対し野党は、与党が最終的にシュミット氏の決定をすべて受け入れたに過ぎないと批判した。
一連のRS議会での動きに対し、米国務省は19日、RS議会の一連の決定を「BiHの安定を確かなものにする行動」として歓迎する姿勢を示した。ロイター通信報道によると、国務省高官は、これが米国主導の危機沈静化努力の結果であるとし、今後の建設的パートナーシップに期待を示した。この動きに先立つ10月17日には、米財務省外国資産管理局(US Treasury’s Office for Foreign Assets Control, OFAC)が、BiH憲法裁判所に違憲と判断された「スルプスカ共和国の日」の組織化に関与したとして制裁対象となっていたドディック氏の側近4人に対する制裁を解除しており、ドディック氏退任に伴うRS側の姿勢の変化と米国の対応が連動している様子がうかがえる。
(アイキャッチ画像出典:Shutterstock)
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