
ユナイテッド・グループ、セルビア事業売却を否定-旧経営陣の動きも指摘
9月18日、南東欧を中心に通信・メディア事業を展開するユナイテッド・グループ(United Group)は、セルビア国内で運営するニュースチャンネル「N1」および「Nova TV」を、国営のテレコム・セルビア(Telekom Srbija)に売却する計画はないとの声明を発表した。声明では、両チャンネルの編集の独立性を断固として守る姿勢を強調するとともに、むしろ旧経営陣がチャンネルの売却や放送形態の変更を画策していたと指摘し、進行中の株主間紛争の様相を呈している。
オランダに拠点を置くユナイテッド・グループは、18日付のプレスリリースにおいて「編集の独立性は現経営陣と過半数株主であるBCパートナーズ(BC Partners)にとって神聖なものであり、いかなる政治的干渉によっても影響されることは決してない」と明言した。さらに、編集の独立性を恒久的に確保・強化するため、編集憲章の強化、外部オンブズマン機能の導入といった具体的な方策を検討しており、そのために7月上旬に国際的な専門アドバイザー2名を招聘したことを明らかにしている。
今回の一連の騒動の中心となっているN1は、セルビア、ボスニア・ヘルツェゴヴィナ、クロアチアで放送されている24時間体制のニュース専門チャンネルである。CNNと独占的な提携関係を結んでおり、CNNの地域アフィリエイトとして国際ニュースを供給される一方、ベオグラード、サラエヴォ、ザグレブにそれぞれ編集センターを持ち、西バルカン地域全体の情勢について独自の取材に基づいた報道を行っている。設立以来、権力監視と調査報道を重視する編集方針を掲げており、政府や与党に批判的な報道も辞さない独立系のメディアとして多くの視聴者から信頼を得ている。その一方で、セルビアをはじめとする各国の政府当局からは頻繁に「反政府的」「偏向している」との非難や圧力を受けており、西バルカン地域において主流メディアとは一線を画す重要な情報源としての地位を確立している。
この声明は、数ヶ月にわたる憶測のなかで発表された。政権に批判的と見なされるN1とNovaは、ヴチッチ(Aleksandar Vučić)大統領を含むセルビア政府高官から頻繁に攻撃の対象となっている。特に、ユナイテッド・グループが2025年4月にセルビアの有料テレビ・ブロードバンド事業者SBBなどを売却したことを受け、メディア事業もいずれ売却され、編集方針が変更されることでヴチッチ政権のメディア支配が一層強固になるのではないかとの懸念が広がっていた。セルビアでは2024年11月に北部都市ノヴィ・サド(Novi Sad)で発生した鉄道駅での死亡事故をきっかけに、全国規模の反汚職デモが続いており、メディアの独立性は特に敏感な問題となっている。
ユナイテッド・グループは憶測を強く否定する一方、同社旧経営陣の下でメディア事業売却に関する協議があったことを認めた。文書化された通信記録によると、創業者であり少数株主のショラク(Dragan Šolak)氏が、長年の側近であるラタヤツ(Vladislav Ratajac)氏を通じて2025年1月にテレコム・セルビアに対し複数の提案を行っていたという。提案には、約1億2,000万ユーロと引き換えにN1とNovaをテレビ放送から撤退させてインターネット専用チャンネルにすることや、ニュース資産を第三者に売却することなどが含まれていた。同社はまた、ショラク氏がセルビア事業売却を促進したとして、親会社に対し2億ユーロのボーナスを要求していたことも明らかにした。ユナイテッド・グループは、現在メディアで報じられている独立性を損なうとされる動きは、まさにショラク氏らが年初に画策し追求していたものだと強く反論している。
ユナイテッド・グループがこうした発表を行った背景には、同社の経営を巡る混乱がある。ユナイテッド・グループは2025年6月、取締役会議長であったショラク氏と当時のCEOであったボクラグ(Victoriya Boklag)氏を解任し、新たにミラー(Stan Miller)氏をCEOに任命した。ショラク氏は、セルビアの通信子会社売却に伴う成功報酬の支払いをBCパートナーズが拒否したため、持株会社を相手に法的措置を取った後に解任されたと主張している。
8月には、独立系の調査報道機関である組織犯罪・腐敗報告プロジェクト(OCCRP)が、ミラー新CEOとテレコム・セルビアのルチッチ(Vladimir Lučić)CEOとの間で会談が行われていたとの疑惑を報じた。これに関しユナイテッド・グループは、ユナイテッド・メディアCEOのスボティッチ(Aleksandra Subotić)氏について「彼女は編集スタッフではない」とした上で、「彼女の行動に関してテレコム・セルビアから提起された懸念があり、社内規定に沿って調査中である」と説明した。
ユナイテッド・グループの声明に対し、当事者であるN1は、今回のユナイテッド・グループの発表は、N1がユナイテッド・グループ経営陣交代後に要求している懸念事項から、旧経営陣の行動や株主間の紛争へと焦点をずらすものだと反論した。その上で、複数年にわたる安定した報道・制作資金の枠組み、編集や人事に関する決定への不干渉、そして政治的圧力から解放された配信の保証を改めて求めている。
(アイキャッチ画像出典:Shutterstock)
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