西バルカン各国首脳がブリュッセルを訪問:EU新首脳部との会談を行う

12月3日、西バルカン各国首脳がブリュッセルを訪問し、コスタ(António Luís Santos da Costa)欧州理事会常任議長(EU大統領)、カッラス(Kaja Kallas)外交・安保政策上級代表、コス(Marta Kos)拡大担当欧州委員ら第2次フォン・デア・ライエン(Ursula Gertrud von der Leyen)欧州委員長体制の下で新任されたEU首脳部との会談を行った。

なお、12月18日にはブリュッセルにおいてEU・西バルカン首脳会合の開催が予定されている。

セルビア

セルビア大統領府発表によれば、カッラス上級代表と会談したセルビアのヴチッチ(Aleksandar Vučić)大統領は、セルビアのEU加盟交渉の状況について協議した。カッラス上級代表は、セルビアのEU加盟向けたコソヴォとの対話、昨年コソヴォ北部で発生した銃撃事件(バニスカ事件)の解決及びセルビアの対ロシア制裁参加の必要性について述べたが、これに対しヴチッチ大統領はセルビアの政策方針と利益について説明した。ヴチッチ大統領は、「これまでのところセルビアの国家運営は良好であり、セルビアが現在の欧州で2番目に早い経済成長を実現していることは誰もが知っている」と述べた。

カッラス上級代表は、自身のX公式アカウントへの投稿を通じて、「セルビアとコソヴォのEU加盟に向けた唯一の道筋は、(EUが仲介して昨年成立した)オフリド合意に基づく両者の関係正常化のみである」と述べた。

 

コス欧州委員と会談したヴチッチ大統領は、セルビアのEU加盟交渉の加速、EUによる西バルカン成長計画の実施について協議し、また特に経済分野におけるセルビアの国内改革の状況について説明した。

またコスタ常任議長と会談したヴチッチ大統領は、セルビアとEUの関係強化、欧州及び西バルカン地域情勢、セルビアのEU加盟交渉の状況について協議した。ヴチッチ大統領は、「コスタ議長に対し、コソヴォにおける最近の治安状況悪化について伝え、EU加盟国による支援と関与の強化を要請した。セルビアは、欧州大陸における安全保障、平和と繁栄を目指すEUの取り組みに対する建設的で真剣なパートナーであり続ける」と述べた。

このほか、ヴチッチ大統領はブリュッセルにおいて、ライチャーク(Miroslav Lajčák)ベオグラード・プリシュティナ間対話及び西バルカン担当EU特別代表、米国のオブライエン(Jim O’Brien)欧州・ユーラシア担当国務次官補等との会談を行った。


モンテネグロ

モンテネグロ大統領府発表によれば、カッラス上級代表と会談したモンテネグロのミラトヴィッチ(Jakov Milatović)大統領は、新たな欧州委員会が2日前に任期を開始したことを踏まえ、今回のブリュッセル訪問における一連の会談の第一歩として、この会合が極めて重要な意味を持つと指摘した。

ミラトヴィッチ大統領は、「この訪問は、モンテネグロの戦略的優先事項である2028年までのEU正式加盟実現に向けた集中的な外交活動の継続を表すものである」と述べたうえで、「新たな欧州委員会の7つの重要優先事項の一つとしてEU拡大が認識されたことは、モンテネグロにとって大きな励みとなっている。これは、EUが拡大を地政学的な要請として、また欧州の強靭性と競争力を強化する手段として捉えていることを明確に示している」指摘した。

また、コス欧州委員と会談したミラトヴィッチ大統領は、加盟候補国としてEU加盟交渉が最も進展しているモンテネグロにとって、主要な外交政策目標であるEU正式加盟の早期実現は、EUとモンテネグロ双方にとっての共通目標となっていると指摘した。

大統領府発表によれば、ミラトヴィッチ大統領は、モンテネグロがEUの共通外交・安全保障政策と完全に足並みを揃えていることを強調し、またモンテネグロ国民のEU加盟支持率が約80%に達していることは、地域の他国への模範であり刺激となっていると指摘した。そのうえでミラトヴィッチ大統領は、「モンテネグロのEU加盟交渉の機関は、これまでにEU加盟を果たした国々のうち最も長い交渉を行った国と比較しても、既にその2倍の期間にに及んでいる。これは、我々全員がこの交渉プロセスを加速させる必要があるというシグナルである」と強調した。ミラトヴィッチ大統領は、加盟交渉を成功裏に終結させるため、欧州委員会との継続的な関与と緊密な協力の必要性を強調し、また、EUUによる早期統合措置の新たな方式を欧州委員会と共同で創出し、モンテネグロをEUの制度にさらに近づける必要性を指摘した。

これに対しコス欧州委員は、モンテネグロを加盟候補国の中で最もEU加盟交渉が進展している国として評価し、年内のモンテネグロ訪問実現の現実的な可能性があると述べた。

またモンテネグロ政府発表によれば、この日は、同国のスパイッチ(Milojko Spajić)首相も、コス欧州委員との電話会談を行っている。

北マケドニア

北マケドニア政府発表によれば、コス欧州委員と会談した北マケドニアのミツコスキ(Христијан Мицкоски)首相は、「北マケドニア政府は引き続き改革に焦点を当て、市民の生活条件の改善に注力し、欧州連合への完全な加盟という目標を維持していく」との意向を伝えた。またミツコスキ首相は、同国がEU加盟交渉の中で行ってきたこれまでの改革の取り組み及びEU共通の価値の実現のために同国が行ってきた数々の譲歩について確認したうえで、北間けどにはEU加盟交渉を加速させ、EU加盟を実現させる方法を見出すための対話を継続する用意があるが、最後通牒や脅迫は受け入れないとの姿勢を示した。

ボスニア・ヘルツェゴヴィナ

ツビヤノヴィッチ(Željka Cvijanović)ボスニア・ヘルツェゴヴィナ大統領評議会議長(議長は三民族代表の輪番制、現在のツビヤノヴィッチ議長はセルビア系代表)は、カッラス上級代表、コス欧州委員、コスタ常任議長と会談を行った。

ボスニア・ヘルツェゴヴィナ大統領評議会発表によれば、コス欧州委員と会談を行ったツビヤノヴィッチ議長は、ボスニア・ヘルツェゴヴィナの現在の政治状況と、自治体、カントン、政体(エンティティ)、国家に至る全ての政府機関が実施している欧州統合分野での活動について説明を行った。そのうえで両者は、ボスニアのEU加盟プロセスを前進させるために必要な前提条件として、ボスニア・ヘルツェゴヴィナを構成する二つの政体間、及び全ての民族間の対話の重要性が強調された。

またツビヤノヴィッチ議長は、今月中旬に予定されているEU・西バルカンサミットまでの間に、西バルカン成長計画に必要な改革アジェンダの欧州委員会への提出、EU加盟交渉におけるボスニア側首席交渉官の選出、ボスニア国家レベルので検討中の法案の成立といった、ボスニアに課されている課題を解決する意向を示した。

またコスタ常任議長と会談したツビヤノヴィッチ議長は、国内代表者間の合意と行動を通じて、そしてEUの支援と実践的なアプローチを得ながら、ボスニアがEUより課されている義務を果たす決意を表明した。ボスニア大統領府発表によれば、憲法構造および合意された調整メカニズムの規則・原則に従い、ボスニア・ヘルツェヴィビナの全てのレベルにおける統治機構が欧州統合プロセスに含まれる必要性を強調した。そのうえでツビヤノヴィッチ議長は、国内政治アクターの合意が特定の外国の介入によって損なわれている状況に対する不満及びデイトン合意、ボスニア・ヘルツェゴヴィナ憲法、欧州の法的基準に反して、外国人が民主的に選出された機関の上に立って行動することは容認できないとの懸念を表明した。

コソヴォ

コソヴォ首相府発表によれば、カッラス上級代表との会談において、クルティ首相は、コソヴォがEUの共通外交政策と完全に足並みを揃えており、欧州水準に沿った改革に取り組んでいることを強調した。また2023年末までに欧州改革アジェンダ(ERA II)の72%を実施し、西バルカン地域で最初に西バルカン成長計画の枠組みにおける改革アジェンダをEUに提出したと説明した。

またクルティ首相は、昨年9月に発生したバニスカでの銃撃事件や、最近発生したズビン・ポトクでの運河爆破事件について言及し、特に運河爆破事件については、事件直後のコソヴォ警察による捜査で押収された軍用品の中に、セルビア軍のみならず、ロシア軍のエンブレムを付けたものが含まれていたことを指摘した。

これに対しカッラス上級代表は、「最近発生したテロ攻撃の責任者は法の裁きを受けねばならない」と述べた。

また、コス欧州委員と会談したクルティ首相は、EU加盟に向けたコソヴォの国内改革の取り組みについて説明した。また、ズビン・ポトクでの運が爆発事件の詳細について説明した。


このほか、クルティ首相はブリュッセルにおいて、コスタ常任議長、オブライエン米国務次官補と会談を行った。

なお、同日夕刻に開催されたコスタ常任議長主催の非公式夕食会には、アルバニアのラマ(Edi Rama)首相も出席した。

(アイキャッチ画像出典:欧州理事会ウェブサイト)

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