コソボ北部でセルビア人住民とコソボ警察の衝突が発生:欧米主要国はコソボ政府の対応を非難
5月26日、セルビア人住民が多数派を占めるコソボ北部の自治体であるズベチャン(Zvečan/Zveçan)において、セルビア人住民とコソボ警察の間での衝突が発生した。コソボ警察は、この衝突によって5名のコソボ警察職員が軽傷を負ったと発表した。また、セルビア語メディアは、数十名のセルビア人住民が負傷したと報じた。
この衝突は、新たに就任した各自治体市長の市庁舎への立ち入りをコソボ政府が強行したことを契機に発生した。コソボ北部のセルビア人多数派4自治体(ズベチャン、北ミトロビツァ(Severna Mitrovica/Mitrovica e Veriut)、ズビン・ポトク(Zubin Potok/Zubin Potok)、レポサビッチ(Leposavić/Leposaviq))では、4月23日に市長選挙が実施されたが、セルビア人住民が選挙への参加をボイコットしたため、全ての自治体でアルバニア人の市長が選出される結果となっていた。
5月25日に就任式を行った4名の新市長は26日に各市庁舎に立ち入りを行ったが、北ミトロビツァ以外の3自治体においては、アルバニア人市長の就任に反対するセルビア人住民が市庁舎への立ち入りを妨害するために市庁舎前に集まっていた。これに対し、コソボ政府は特殊部隊を含むコソボ警察を動員して市庁舎への立ち入りを強行したため、セルビア人住民とコソボ警察との間で緊張が高まり、ズベチャンでは衝突に発展する結果となった。この際、現場に臨場していたEU法の支配ミッション(EULEX)の車両も被害を受けた。
この衝突に関し、欧米主要国はコソボ政府側の対応を非難した。「クイント」と呼ばれる欧米主要5カ国(米国、英国、独、仏、伊)の在コソボ大使館は「我々の要請に反して市庁舎への立ち入りを強行したコソボ政府の決定を非難する。コソボ政府に対し、直ちに撤収して事態の悪化を避けることを求める」とする共同声明を26日に発表したほか、28日には次のとおり共同声明を発出した(強調表示は当サイトによるもの)。
我々は、我々が繰り返し自制を求めたにもかかわらず、コソボがコソボ北部の市庁舎への立ち入りを強行したことを非難する5月26日の声明を再度表明する。この文脈で、クイントとEUは、コソボ政府当局がレポサビッチ、ズビン・ポトク、ズベチャンの各市庁舎への立ち入りを強制する新たな措置を取らないことを期待する。 また選出された市長たちは、自制心を示し、彼らのコミュニティのすべてのメンバーを代表し奉仕するというコミットメントと責任を示すために、直ちに行動を起こすべきである。
同時に我々は、移動の自由を含む安全で安心な環境に影響を与え、緊張を煽り、紛争を促進する可能性のあるその他の脅威や行動に対して、すべての当事者に強く警告する。 我々は特に、民間人、警察官、EULEXおよびKFORのメンバーの安全と安寧について懸念している。新たな一方的行動は、クイント諸国およびEUとの関係に悪影響を及ぼすだろう。
クイントとEUは、EU主導の対話が関係正常化とEU加盟への道であることを強調する。我々は当事者に対し、本年2月および3月にコソボとセルビアの間で成立した合意の実施に向けた次のステップ(ASMM(当サイト訳注:ASMMはAssociation of Serb Majority Municipalitiesの略であり、セルビア側が「セルビア人自治体共同体」と呼んでいる自治組織を指している)を含む)について共同で取り組み、今後の対話に建設的かつ誠実に参加することを想起するよう求める。
https://xk.usembassy.gov/jqstatem528/
EUは「新市長の市庁舎への立ち入りの試みによって発生したコソボ北部での衝突を非難するとともに、EULEXへの攻撃について非常に遺憾に思う。EUはこれ以上のいかなる一方的あるいは挑発的な行動も受け入れない」との報道官声明を発表した。
またブリンケン米国務長官は次のとおりコソボ政府を非難する声明を発表した(強調表示は当サイトによるもの)。
米国は、コソボ北部市庁舎への立ち入りを実力行使によって強行するというコソボ政府の行動を強く非難する。このコソボ政府の行動は米国及び欧州諸国の助言に反して実施された。この行動は、情勢を急激かつ不必要に悪化させ、コソボとセルビアの関係正常化を支援する我々の努力を台無しにするものであり、コソボと我々との関係について相応の結果をもたらすであろう。我々は、クルティ・コソボ首相が態度を改めるよう求めるとともに、当事者双方に対し事態の悪化をもたらす行動を慎むよう求める。
https://www.state.gov/condemning-unilateral-actions-by-the-government-of-kosovo/
セルビアのブチッチ大統領は、この衝突発生を受けて、セルビア軍を即応体制に移行させるとともに、コソボとの境界線付近にセルビア軍部隊を展開させるよう命じたと発表した。
コソボ北部では、昨年、「(それまでは認められてきた)セルビア政府発行の車両ナンバープレートのコソボ領内での使用を禁止する」とのコソボ政府の発表に対する反発から、4自治体市長が辞職したほか、行政機関、地方議会、司法機関、警察などの公的機関に勤務するセルビア人職員が一斉に辞職していた。ナンバープレート問題についてはEUの仲介によって暫定的な妥協案が成立したが、セルビア人住民及びそれを支援するセルビア政府はその後も、「ブリュッセル合意に定められたセルビア系自治体共同体が設置されない限りは選挙に参加しない」との姿勢を示していた。
当初は2022年12月の投票が予定されていた選挙は、選挙管理委員会事務所が爆破されるといった事件の影響もあり、欧米主要国が実施延期をコソボ政府に対し働きかけたことで4月に延期されたが、セルビア人側は選挙ボイコットの姿勢を変えなかった。そのため結果的には、約45,000人の有権者のうち投票を行ったのは約1,600人に留まり、投票率は3.47%となった。
この選挙結果について、在コソボ米国大使館は「選挙はコソボ憲法と法的要件に沿って実施された」として選挙結果を認める声明を発表する一方、EUは「選挙はコソボの法的枠組に沿って実施されたが、この選挙を通常のものと見なすことは出来ず、コソボ北部の情勢について長期的な政治的解決をもたらす選挙ではなかった。政治的解決に至る唯一の道はセルビア人住民の公的機関への復帰である」とする報道管声明を発表していた。
(アイキャッチ画像出典:Shutterstock)
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