
フォン・デア・ライエン欧州委員長、セルビアに改革加速と対露制裁を要求
10月15日、欧州委員会のフォン・デア・ライエン(Ursula von der Leyen)委員長は、西バルカン諸国歴訪の一環としてセルビアの首都ベオグラードを訪問し、セルビアのヴチッチ(Aleksandar Vučić)大統領と会談した。会談後の共同記者会見で、フォン・デア・ライエン委員長は、セルビアが欧州連合(EU)加盟に向けて前進するためには、法の支配、選挙制度、報道の自由といった分野での改革を具体化させるとともに、対ロシア制裁を含むEUの共通外交・安全保障政策へのさらなる同調が必要であると強調した。
フォン・デア・ライエン委員長は、セルビアがEUの外交政策との同調率を61%まで高めたことを賞賛しつつも、「さらなる努力が必要だ。我々はセルビアを信頼できるパートナーとして頼りにしたい」と述べ、改革の実行を強く促した。また、選挙人名簿の統一やメディア規制当局(REM)の理事会メンバー選出に関する最近の進展を歓迎する一方、改革には社会と政治のあらゆる関係者の関与が不可欠であると付け加えた。さらに、数ヶ月にわたり国内で続く反政府デモに触れ、EUは平和的な集会の権利を支持するとの立場を表明した。
これに対し、ヴチッチ大統領は、EU加盟がセルビアの戦略的目標であり、外交政策の優先事項であることを改めて表明した。しかし、ウクライナでの戦争開始以降、セルビアが加盟交渉において一つの交渉分野(クラスター)も開けていない現状を指摘した。また、エネルギー問題にも言及し、ロシア資本が大株主であるセルビア石油産業(NIS)に対する米国の制裁が発効し、事実上EUの制裁下にもある中で、困難な冬が予想されるとし、エネルギー安全保障の分野でEUからの支援を期待すると述べた。
記者会見動画(英語吹き替え版) 出典:European Commission Press Corner
フォン・デア・ライエン委員長はこれに応じ、EUは「西バルカン成長計画」の下で既に1億ユーロ以上の新規投資をセルビアに提供しており、今後も追加支援を行う用意があると述べた。具体的には、セルビアの電力網を近隣諸国やEUと結ぶ「トランス・バルカン電力回廊」や、ブルガリアとのガスパイプライン連結事業などを通じて、セルビアのエネルギー市場統合を支援する考えを示した。
会談では経済問題も主要な議題となり、ヴチッチ大統領はEUが提案している鉄鋼製品に対する新たな関税及び輸入割当について、ノルウェー、アイスランド、ルクセンブルク等に対する扱いと同様に、セルビアを除外するようフォン・デア・ライエン委員長に書簡で正式に要請したことを明らかにした。この新措置は、中国の河北鋼鉄集団(HBIS)傘下にあるセルビア最大のスメデレヴォ製鉄所の操業に深刻な影響を与える可能性があると懸念されている。
一方で、フォン・デア・ライエン委員長の今回の訪問に対しては、欧州緑の党などから批判的な声も上がっている。緑の党などは、ヴチッチ政権下での法の支配やメディアの自由に関する問題を指摘し、フォン・デア・ライエン委員長の訪問が強権的な指導者を正当化する誤ったメッセージを送る可能性があると警告していた。
(アイキャッチ画像出典:Predsednik Republike Srbije)
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