
セルビア議会、マツット新内閣を承認
4月16日、セルビア国民議会(一院制、定数250)は、著名な内分泌学者ジューロ・マツット(Đuro Macut)氏を新首相とする新内閣を承認した。議会会合の中継動画によると、出席した199人の議員のうち153人が新内閣に賛成票を投じ、46人が反対票を投じた。
与党セルビア進歩党(SNS)と、その連立パートナーであるセルビア社会党(SPS)、統一セルビア党(JS)、統一年金者党(PUPS)、セルビア社会民主党(SDP)、ヴォイヴォディナ・ハンガリー人同盟(SVM)の議員らが新政府に賛成票を投じた。
一方、自由・正義党(SSP)、セルビア中道党(SRCE)、緑の党・左派戦線などの野党議員は反対票を投じた。新セルビア民主党(Novi DSS)、セルビア王政復興運動(POKS)、民主党(DS)の議員らは会合に出席しなかった。
この政府再編は、昨年11月にノヴィ・サド(Novi Sad)で発生した鉄道駅舎屋根崩落事故以来、国内を揺るがしている学生主導の大規模抗議デモの中、SNS党首のヴチェヴィッチ(Miloš Vučević)前首相が1月に辞任したことを受けたものとなる。
4月6日にヴチッチ(Aleksandar Vučić)大統領から首相候補に指名されたマツット氏は、前政権から主要閣僚を留任させた。これには財務相のシニシャ・マーリ(Siniša Mali)氏、経済相のアドリヤナ・メサロヴィッチ(Adrijana Mesarović)氏、エネルギー相のドゥブラヴカ・ジェドヴィッチ=ハンダノヴィッチ(Dubravka Đedović Handanović)氏、国防相のブラティスラヴ・ガシッチ(Bratislav Gašić)氏、外相のマルコ・ジューリッチ(Marko Đurić)氏、保健相のズラティボル・ロンチャル(Zlatibor Lončar)氏(全員SNS所属)、そしてSPS所属の内相イヴィツァ・ダチッチ(Ivica Dačić)氏などが含まれる。
マツット内閣は、無任所大臣5人を含む計30人の閣僚で構成される。
新政府の宣誓式は議会で行われ、マツット首相と閣僚らは「セルビア共和国に忠誠を誓い、憲法と法律を尊重し、政府メンバーとしての職務を誠実に、責任を持って、献身的に遂行し、コソヴォ・メトヒヤをセルビア共和国内に保持することに尽力することを名誉にかけて約束する」と宣誓した。
マツット首相は医学博士で、政治経験のない61歳の学者である。彼は1月に初めて政治の舞台に登場し、ヴチッチ大統領の主導する新たな政治グループである「国民・国家運動」を支持する集会で演説した。議会での初の公式演説で、マツット首相は大学の秩序回復とコソヴォに対するセルビアの領土的主張の維持を強調した。
新内閣の構成
新内閣は、前政権から17人の閣僚が留任し、3人が異なるポストに移動、10人が新たに任命された。以下は新内閣の主要閣僚リストである:
役職 | 氏名 (片仮名) | 氏名 (セルビア語) | 所属政党 | 新任/留任 | 前職 |
---|---|---|---|---|---|
首相 | ジューロ・マツット | Đuro Macut | 無所属 | 新任 | 医学者、大学教授 |
第一副首相兼財務大臣 | シニシャ・マーリ | Siniša Mali | セルビア進歩党 (SNS) | 留任 | 第一副首相兼財務大臣 |
副首相兼内務大臣 | イビツァ・ダチッチ | Ivica Dačić | セルビア社会党 (SPS) | 留任 | 副首相兼内務大臣 |
副首相兼経済大臣 | アドリヤナ・メサロビッチ | Adrijana Mesarović | SNS | 留任 | 経済大臣兼貿易大臣 |
農林水資源大臣 | ドラガン・グラモチッチ | Dragan Glamočić | 無所属 | 留任 | 農業担当大統領補佐官 |
環境保護大臣 | サラ・パヴコフ | Sara Pavkov | SNS | 新任 | 環境保護省次官 |
建設・運輸・インフラ大臣 | アレクサンドラ・ソフロニエビッチ | Aleksandra Sofronijević | 無所属 | 留任 | 建設・運輸・インフラ大臣代行 |
鉱業・エネルギー大臣 | ドゥブラヴカ・ジェドヴィッチ=ハンダノヴィッチ | Dubravka Đedović Handanović | 無所属 | 留任 | 鉱業・エネルギー大臣 |
国内・対外貿易大臣 | ヤゴダ・ラザレヴィッチ | Jagoda Lazarević | 無所属 | 新任 | 外務省経済外交担当次官代行 |
法務大臣 | ネナド・ヴイッチ | Nenad Vujić | 無所属 | 新任 | 司法アカデミー院長 |
行政・地方自治大臣 | スネジャナ・パウノヴィッチ | Snežana Paunović | SPS | 新任 | 国民議会副議長 |
人権・少数民族権利・社会対話大臣 | デモ・ベリシャ | Demo Beriša | 無所属 | 新任 | 人権・少数民族保権利・社会対話大臣特別顧問 |
国防大臣 | ブラティスラヴ・ガシッチ | Bratislav Gašić | SNS | 留任 | 国防大臣 |
外務大臣 | マルコ・ジューリッチ | Marko Đurić | SNS | 留任 | 外務大臣 |
欧州統合大臣 | ネマニャ・スタロヴィッチ | Nemanja Starović | SNS | 異動 | 労働・雇用・退役軍人・社会問題大臣 |
教育大臣 | デヤン・ヴーク=スタンコヴィッチ | Dejan Vuk Stanković | 無所属 | 新任 | 政治評論家、大学教授 |
保健大臣 | ズラティボル・ロンチャル | Zlatibor Lončar | SNS | 留任 | 保健大臣 |
労働・雇用・退役軍人・社会政策大臣 | ミリカ・ジュルジェヴィッチ=スタメンコフスキ | Milica Đurđević Stamenkovski | オースキーパーズ(SSZ) | 異動 | 家族福祉・人口問題大臣 |
家族福祉・人口問題大臣 | イェレナ・ジャリッチ=ヴァチェヴィッチ | Jelena Žarić Kovačević | セルビア進歩党 (SNS) | 異動 | 行政・地方自治大臣 |
スポーツ大臣 | ゾラン・ガイッチ | Zoran Gajić | 無所属 | 留任 | スポーツ大臣 |
文化大臣 | ニコラ・セラコヴィッチ | Nikola Selaković | SNS | 留任 | 文化大臣 |
農村福祉大臣 | ミラン・クルコバビッチ | Milan Krkobabić | 統一年金者党 (PUPS) | 留任 | 農村福祉大臣 |
科学・技術開発・イノベーション大臣 | ベーラ・バリントゥ | Béla Balint | 無所属 | 新任 | 血液学者、大学教授 |
観光・青年大臣 | フセイン・メミッチ | Husein Memić | セルビア社会民主党 (SDPS) | 留任 | 観光・青年大臣 |
情報通信大臣 | ボリス・ブラティナ | Boris Bratina | 無所属 | 新任 | 哲学者、大学准教授 |
公共投資大臣 | ダルコ・グリシッチ | Darko Glišić | SNS | 留任 | 公共投資大臣 |
無任所大臣 (低開発自治体発展担当) | ノヴィツァ・トンチェフ | Novica Tončev | SPS | 留任 | 無任所大臣 |
無任所大臣 (ディアスポラ問題調整担当) | ジョルジェ・ミリチェヴィッチ | Đorđe Milićević | SPS | 留任 | 無任所大臣 |
無任所大臣 (和解・地域協力・社会安定担当) | ウサメ・ズコルリッチ | Usame Zukorlić | 正義和解党 (SPP) | 留任 | 無任所大臣 |
無任所大臣 (国際経済協力・教会地位問題担当) | ネナド・ポポヴィッチ | Nenad Popović | セルビア人民党 (SNP) | 留任 | 無任所大臣 |
無任所大臣 (ジェンダー平等・女性に対する暴力防止・女性のエンパワーメント担当) | タティヤナ・マツーラ | Tatjana Macura | 無所属 | 留任 | 無任所大臣 |
注目すべき変更点として、前政権で副首相を務めていたアレクサンダル・ヴリン(Aleksandar Vulin)氏が閣外に去った。ヴリン氏はセルビア政界で最も親ロシア的な人物として知られており、西側諸国からの圧力により閣外に去ったとの見方もある。
新閣僚の中には、教育相のデヤン・ヴーク=スタンコヴィッチ氏や情報通信相のボリス・ブラティナ氏など、親露・反欧米強硬派として知られる人物も含まれており、野党や市民大体等からは批判の声が上がっている。
セルビアの前連立政府は2023年12月の繰り上げ選挙後の2024年5月に発足した。SNSは2012年からセルビアで政権を握っている。
(アイキャッチ画像出典:セルビア政府ウェブサイト)
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