
欧州委員会が「セルビアの司法の独立、汚職対策、メディアの自由には依然多くの課題が残されている」と指摘
欧州委員会(European Commission)は、7月8日に公表した2025年版の「法の支配に関する報告書」において、セルビアが司法、汚職対策、メディアの自由、そして議会の機能といった分野で依然として構造的な欠陥を抱えていると指摘した。セルビアは長年にわたり欧州連合(EU)への加盟を目指しているが、これらの問題がその道のりを険しいものにしている。
この報告書によると、セルビアでは司法の独立性強化を目的とした憲法改正の取り組みが続けられているものの、司法および検察に対する政治的圧力は依然として高いままである。特に、アレクサンダル・ヴチッチ(Aleksandar Vučić)大統領を含む政府高官や国会議員が、進行中の捜査や裁判手続き、さらには個々の裁判官や検察官の業務について公の場で不適切なコメントを続ける事例が問題視されている。これらの中には、司法判断に対する批判や、裁判官および検察官の解任を示唆するような脅迫も含まれていたという。
汚職対策に関しても、政治的干渉からの独立性に懸念が示された。2025年2月、セルビア検察当局は153人を逮捕する大規模な汚職対策作戦を開始したが、これは政府高官による公的な声明を受けて行われたものであった。この動きの背景には、2024年11月に北部の都市ノヴィ・サド(Novi Sad)で発生し16人が死亡した駅の屋根崩落事故をきっかけに広がった、学生主導の大規模な反政府デモがある。このデモの高まりを受け、ヴチッチ大統領は2024年12月末に国営放送のインタビューで大規模な汚職対策の実施を発表していた。欧州委員会は、この一連の経緯が、政治的な影響を受けない体系的な汚職との戦いに対する懸念を抱かせると指摘している。さらに、ノヴィ・サドの事故を巡る捜査では、国内の複数の検察機関が当初別々に捜査を進めるなど制度的な不備も露呈し、2025年3月には欧州検察庁(European Public Prosecutor’s Office, EPPO)も同駅の改修事業に関する調査を開始している。
またメディアの自由と多元性についても厳しい評価が下された。2025年6月に採択された新しいメディア法は、その制定過程で透明性や公の議論が欠如していたと批判されている。また、電子メディア規制機関(REM)の独立性や、その評議会メンバーの選出手続きの遅れと欠陥も懸念材料として挙げられた。報告書によれば、ジャーナリストは公的機関から情報の開示を拒否されることが頻繁にあり、その身の安全もますます脅かされている状況にあると指摘されている。
マルタ・コス(Marta Kos)拡大担当欧州委員は、「セルビアは非常に困難な状況にあるが、EUはセルビア国民の欧州への道を強く支持している。しかし、まだなされるべきことは多い」と述べた。さらに同氏は、国内で続く抗議デモは国民が現状に満足していないことの表れであり、デモ参加者の要求は、EUがセルビアに求める汚職対策、法の支配、メディアの自由といった改革課題と多くの点で一致すると指摘した。
セルビアは2012年にEU加盟候補国となったが、加盟交渉は近年停滞している。交渉の最後の具体的な進展は2021年12月に「クラスター4(グリーンアジェンダと持続可能な連結性)」を開始したことであり、それ以前に開始されたのは「クラスター1(基礎分野)」のみとなっている。EU加盟交渉は6つのクラスター(分野別交渉単位)に分かれており、セルビアの前途には多くの課題が山積している。
欧州委員会は、各加盟国に加え加盟候補国についても、国内における法の支配に関する状況を審査し、その評価結果を報告書として毎年公表している。
(アイキャッチ画像出典:Shutterstock)
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