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EUは次期予算で拡大支援を大幅増額 ― 西バルカン諸国の加盟交渉加速に期待と課題

欧州委員会(European Commission)は、2028年から2034年までの次期多年次財政枠組(Multiannual Financial Framework, MFF)において、欧州連合(EU)への加盟を目指す候補国や近隣諸国への支援を大幅に増額する予算案を提示した。これはEUの拡大政策を明確な地政学上の戦略的優先事項と位置づけるもので、西バルカン諸国を含む加盟候補国の改革と投資を強力に後押しする狙いがある。しかし、その支援は各国の改革努力に厳格に基づき、特にセルビアのように課題を抱える国にとっては、期待とともに改革実行への強い圧力を意味している。

「モンテネグロやアルバニアとの加盟交渉はかつてない速度で進展」

7月17日の記者会見において、EUの拡大・東方近隣政策担当委員であるマルタ・コス(Marta Kos)氏は、提示されたMFF案について「拡大にとって実に良いニュースだ」と評価した。提案では、加盟候補国や東方近隣諸国向けの予算として426億ユーロが計上されており、これは現行MFF(2021-2027年)の310億ユーロから37%の大幅な増額となる。コス委員は、「予算は我々の政策的優先順位を数字で示したものだ。増額された予算により、改革と投資のペースをさらに上げ、候補国をEU加盟に近づけることができる」と述べ、この予算増額は、モンテネグロやアルバニアなどとの加盟交渉がかつてない速さで進んでいる現状を反映したものだと説明した。

この支援強化策は、EUの新たな対外行動の包括的枠組みである「グローバル・ヨーロッパ(Global Europe)」を通じて実施される。また、MFF本体とは別に、ウクライナの復興、近代化、そしてEU加盟への道を支援するため、1000億ユーロの特別枠が設けられることも明らかにされた。

しかし、コス委員はこれらの資金提供が「メリットベース」と「条件付き」という2つの原則に厳格に基づいていることを強調した。資金は、各国がそれぞれの改革アジェンダに定められた基準を満たした場合にのみ提供される。

「セルビアの進展は遅れている」

この原則が具体的に適用される例として、セルビア共和国の状況が挙げられる。コス委員は記者からの質問に答える形で、セルビアが約束した改革を実行すれば、早ければ今秋にもEU加盟交渉の「クラスター3(競争力と包摂的成長)」を開始できる可能性があるとの見方を示した。しかし同時に、加盟交渉の根幹をなす「法の支配」の分野における進捗が遅れていることを指摘し、セルビアにとって改革の加速が喫緊の課題であることを強調した。

コス委員によれば、セルビアは2024年11月にクラスター3開始に必要なベンチマークの達成を約束しており、これまでに3つのメディア関連法を採択した。現在、新しい選挙法や電子メディア規制機関(Regulatornog tela za elektronske medije, REM)の評議会設置に関する法律の策定が進められている。同委員は「これらの条件が満たされれば、秋にもクラスター3の開始に向けて進むことができる」と述べた。

一方で、コス委員は加盟交渉の「クラスター1(基礎分野)」に含まれる法の支配、司法、基本的人権といった分野での進捗が緩慢であることに懸念を表明した。これらの分野の作業は、国内の学生主導による大規模な抗議活動の影響で事実上停滞していたが、今年4月のセルビア新政権発足後は、EUもセルビア当局と汚職対策、メディア法、公共調達といった分野でより緊密に連携していると述べた。また、クラスター1交渉開始のためには、コソヴォとの関係正常化も不可欠な要素であると改めて強調した。

現在、EU加盟候補国はセルビアの他に北マケドニア、モンテネグロ、アルバニア、モルドバ、ボスニア・ヘルツェゴビナ(Bosnia and Herzegovina)があり、コソヴォは2022年に加盟申請を行っている。コス委員は、MFF案がこれらの国々の加盟を後押しする強力な基盤となるとし、「拡大とは単にEUの面積や人口を増やすことではない。それは欧州の統一なのだ」と述べ、加盟条件を満たすために努力する全ての国々への支援を強化することで、欧州統一への道を着実に進む決意を示した。

(アイキャッチ画像出典:Shutterstock)

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