
セルビアで反政府デモ激化、警察と衝突 大学自治の侵害も問題に
セルビアでは、2027年に予定されている国民議会総選挙の繰り上げ実施を求める学生主導の反政府デモが激化し、首都ベオグラード(Belgrade)を中心に警察との衝突が頻発している。デモ参加者の大量逮捕に加え、警察が大学の敷地内で学生を拘束する事態も発生し、法で保障された大学の自治を侵害したとして、政府への批判が一層強まっている。
セルビアの歴史にとって重要な意味を持つ「聖ビトゥスの日(Vidovdan)」でもある6月28日にベオグラードで行われた大規模な抗議集会では、数万人の市民が参加し、「選挙を望む」と連呼してアレクサンダル・ヴチッチ(Aleksandar Vučić)大統領の政権に抗議した。集会後、一部のデモ隊と警察が衝突。イヴィツァ・ダチッチ(Ivica Dačić)内相は翌29日の記者会見で、77人を逮捕し、この衝突で警察官48人と市民22人が負傷したと発表した。ヴチッチ大統領は「暴力でセルビアを打ち負かすことはできない」と述べ、デモ参加者を「暴徒」と非難し、さらなる逮捕者が出る可能性を示唆した。
この大量逮捕に反発し、セルビア各地では道路や橋を封鎖する抗議活動が拡大。事態がさらに深刻化したのは7月2日の夜であった。警察の機動隊がベオグラード大学の法学部や機械工学部の入り口付近で抗議活動を行っていた学生らを拘束。この様子を撮影した映像がSNSで拡散し、大きな波紋を呼んだ。セルビアの法律では、大学の敷地は「不可侵」とされ、公共の安全への脅威など例外的な場合を除き、大学当局の同意なしに警察官が立ち入ることは禁じられている。
内務省は、「学部施設内には一切立ち入っておらず、大学の自治を尊重した」と声明を発表し、法律違反を否定した。しかし、学生や教授らは、複数の学生が負傷して病院に搬送されたと主張しており、警察による過剰な実力行使への批判が高まっている。この一連の強制措置で、未成年者を含む多数の若者が拘束されたと報じられている。
この状況を受け、国連人権高等弁務官事務所は、「恣意的な拘束の報告」に懸念を表明し、セルビア当局に自制と表現および平和的集会の自由の尊重を求める声明を発表した。
一連の抗議活動は、2024年11月1日にセルビア第2の都市ノヴィ・サド(Novi Sad)で駅のコンクリート製の屋根が崩落し、16人が死亡した事故が発端となっている。多くのセルビア国民は、この事故を政府の汚職と怠慢が引き起こした人災と捉えており、当初は事故の責任追及を求めていた。しかし、政府が十分な対応を取らなかったことから、学生らを中心に不満が先鋭化。2025年5月からは、ヴチッチ政権の退陣と総選挙の早期実施を求める、より政治的な要求へと発展していた。
(アイキャッチ画像出典:Shutterstock)
この記事へのコメントはありません。