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セルビアのヴチッチ大統領がウクライナを訪問:ウクライナ都市復興支援を表明するも対露制裁は拒否

6月11日、セルビアのアレクサンダル・ヴチッチ大統領(Aleksandar Vučić)は、ウクライナ南部の港湾都市オデッサで開催された「ウクライナ・南東欧サミット」に出席し、同国のウォロディミル・ゼレンスキー大統領(Volodymyr Zelenskyy)と会談した。2012年の政権就任以来、ヴチッチ大統領がウクライナを訪問するのはこれが初めてとなった。

セルビア大統領府プレスリリースによれば、会談においてヴチッチ大統領は、戦争で荒廃したウクライナの都市復興への支援を申し出た。具体的には、セルビアが「1つか2つの都市、あるいはより小規模な一つの地域の復興を引き受けることが可能である」と述べ、ウクライナに対する人道支援と領土の一体性への政治的支持を継続する意向を明確にした。これに対しゼレンスキー大統領は、二国間会談後の声明で、ヴチッチ大統領による財政的・人道的支援と復興支援の申し出に謝意を表明した。

一方で、ヴチッチ大統領はサミットで採択された共同宣言への署名を見送った。同大統領はサミット後、セルビアのメディアに対し、宣言がロシアに対する更なる制裁を求めていることなどを理由に挙げ、「自分自身、自国、そして自らが追求する政策に反することはできない」と述べ、署名しない決定を正当化した。当該宣言は、ロシアによるウクライナ侵攻を非難し、恒久的な平和回復に向けたウクライナの外交努力を支持するとともに、国際社会に対しロシアへの制裁を維持・強化するよう呼びかける内容となっている。また、ウクライナにとって北大西洋条約機構(NATO)への加盟が最善の安全保障上の選択肢であるとも明記されている。

ヴチッチ大統領はまた、ゼレンスキー大統領が、セルビアにとって極めて重要な政治問題であるコソヴォについて、その代表者をサミットに招待しなかったことに対し、セルビアの領土一体性を尊重する措置であるとして感謝の意を伝えた。ウクライナは、2008年にセルビアからの独立を一方的に宣言したコソヴォの独立を承認していない国の一つとなっている。

セルビアは2012年以来、欧州連合(EU)の加盟候補国であるが、ロシアのウクライナ侵攻後も伝統的な同盟国であるロシアへの制裁には加わっておらず、EUの外交政策との不一致を度々批判されてきた。セルビアは国内エネルギー需要の大部分をロシア産天然ガスに依存しており、国内唯一の石油精製会社NISの過半数株式もロシア企業であるガスプロムが保有している。

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一方で、セルビアは自国製の武器・断薬を第三国経由でウクライナへ売却しているとされており、5月29日にはロシア対外情報庁(SVR)が、セルビアの姿勢は「ロシアを後ろから刺す」ものだとして強く非難している。

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今回のヴチッチ大統領のウクライナ訪問は、ウクライナへの人道的配慮を示しつつも、ロシアとの関係を維持し、コソヴォ問題を巡る自国の立場を確保しようとする、セルビアの複雑で多角的な外交戦略を浮き彫りにしたと言える。

(アイキャッチ画像出典:セルビア大統領府)

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