セルビア

セルビア関連ニュース

ミロシュ・ヴェリキ高速道路の新区間が開通:使用許可を巡り専門家から懸念も

7月5日、セルビアのアレクサンダル・ヴチッチ (Aleksandar Vučić) 大統領は、高速道路「ミロシュ大帝」(Miloš Veliki) のパコヴラチェ (Pakovraće) – ポジェガ (Požega) 間、19.6kmの区間の開通式典を行った 。一般車両への交通開放は翌6日から開始された。この区間は、プレリィナ (Preljina) からポジェガへ至る全長30.9kmの高速道路のうちの残された最後の区間であった。またこの高速道路は、ベオグラードからセルビア南西部を経てモンテネグロの首都ポドゴリツァ(Podgorica)、さらに同国最大の港湾都市バール(Bar)までを繋ぐ、E763欧州道路(European route E-763)の主要区間にもなっている。

この区間は、主要請負業者である中国交通建設 (China Communications Construction Company, CCCC) によって建設が進められたが、建設契約は、セルビアと中国間のインフラ分野における経済技術協力に関する二国間協定に基づき入札なしで締結された。工事は2019年に着工し、当初は2021年末の完成を目指していたが、期限は繰り返し延長された。遅延の主な理由は、区間の約3分の1が橋とトンネルで構成されるなど、地形的に建設が極めて困難だったためだったとされている。ヴチッチ大統領も式典において、この区間が「セルビアでこれまでに建設された中で最も要求の厳しい道路区間」であったと述べている。特に、ムニノ・ブルド (Munjino Brdo) トンネル(3,150m)とラズ (Laz) トンネル(2,850m)の工事は難航したとされている。

この日の開通式典には、李明(Li Min)駐セルビア中国大使も出席した。ヴチッチ大統領は、「この高速道路の完成は、セルビアと中国の友情の新たな証となる」と述べた。

出典:RTS Sajt – Zvanični kanal

出典:CCTV Video News Agency

一方で、この開通は正式な使用許可 (usage permit) が発行されない中で行われた。公開されている建設許可データベースによれば、工事完了は報告されているものの、道路が使用に適していることを証明する文書は確認されていない。セルビア国内の一部報道によると、専門家の監督責任を負う技術者たちが、区間完成の確認書発行に必要な書類への署名を全会一致で拒否したとされ、これにより法的に定められた技術審査委員会による試験運用の提案ができなかった可能性が指摘されている。

特に安全性の面では、ムニノ・ブルドトンネルが関連規則で定められた安全パラメータの自動監視システムを備えていないことが問題視されている。セルビア内閣は開通に先立つ6月21日、「国道における試験運行体制の確立に関する条件と手続きに関する法律」の改正案を採択した。これにより、自動監視システムの代わりに、24時間体制の防火監視やビデオ監視などを設置することが認められた。

こうした状況に対し、一部の地質技術者はムニノ・ブルドトンネル上の丘が0.1mm動いているとし、これは「懸念すべき動き」であると主張している 。また、約7,000人の技術者が参加する団体「技術者の要求」(The Demands of Engineers) は、必要な機能試験や使用許可なしに開通させたことは計画・建設法に違反するとの懸念を表明した

これに対し、政府側は安全性を強調している。高速道路を管理・運営する公共企業「プテヴィ・スルビイェ」(Putevi Srbije) の社長であるゾラン・ドロブニャク (Zoran Drobnjak)氏は、新区間は安全であると「個人的に保証する」と述べ、政治的な理由で開通を急いだとの見方を否定した 。ヴチッチ大統領もまた、道路は「完全に安全」であると主張している。

(アイキャッチ画像はミロシュ大帝高速道路のゴルニ・ミラノヴァツ地域区間、出典:Wikimedia commons CC BY-SA 4.0)

関連記事一覧

  1. この記事へのコメントはありません。

CAPTCHA