セルビア:第3次ブルナビッチ政権閣僚人事の特徴とそこから見える対外政策の方向性
- SPSとダチッチの復権
- 追放された腹心
- 閣僚人事に見えるバランス外交への配慮
- バランス外交の継続
今年10月に発足した第3次ブルナビッチ(Ana Brnavić)政権は、第2次政権時から16名の閣僚を入れ替えた顔ぶれとなっており、交代となった閣僚の中には第2次政権時の重鎮も含まれているなど一見するとフレッシュな人事の印象を受ける。しかし、実態としては第2次政権時の政策の方向性を継続するものと見られており、それはつまり、ブチッチ(Aleksandar Vucić)大統領率いるセルビア進歩党(SNS)と、外相兼第一副首相という重要ポストに復帰したダチッチ(Ivica Dačić)のセルビア社会党(SPS)の協調という、過去10年にわたってセルビア政府の骨格を成してきた関係性が、今後もセルビアの対外政策を占ううえでの最重要ファクターになることを意味している。
SPSとダチッチの復権
第3次ブルナビッチ政権は、第2次政権時より5人多い28人の閣僚から構成されている。過去のSNS・SPS連立政権と同様に、閣僚人事の最終的な決定権はブチッチ大統領が握っており、そのブチッチ大統領は既に2024年の前倒し議会選挙実施を予告している。つまり、この政権の「寿命」は本来の任期の4年ではなく、僅か1年半そこそこに終わる可能性が高い。
その閣僚の顔ぶれを見ると、第2次政権時と同じポストに残ったのは僅か7名だけであり、ブチッチが大なたを振るった跡が垣間見られる。ブチッチは、たとえそれが自身の身内や腹心であろうと、政界において彼の影響力が及ばない独自の「勢力圏」を築くことは決して許さず、それゆえ重要ポストに同じ人物を長期間居座り続けさせることを好まない。
SPSとダチッチは、前政権時よりも2名多い5名の閣僚を送り込むなど、明らかに前政権時よりも立場を強くした。事実、SNSは今年4月の選挙において議会での単独過半数確保に失敗しており、少数民族政党の協力によってなんとか過半数を維持する状態にある。また、国政選挙と同時に実施されたベオグラード市議会選挙でSNSは更に苦戦しており、SPSの協力無しには市議会での過半数確保は不可能な状態にある。そうした背景から、ブチッチは、一時は関係が冷却化したと言われていたダチッチとの関係を修復する必要に迫られた。ダチッチは、外相兼第一副首相に加え治安機関調整局長(Head of the Bureau for Coordination of Security Services)のポストも手に入れており、これはつまり、外交と治安という二つの最重要政策分野をダチッチが手中に収めたことを意味している。無論、真にセルビアにとって重要な政策決定はいかなる分野であろうとブチッチの承諾無しになされることはないが、ダチッチの復権は誰の目にも明らかとなっている。
ダチッチは、コソボ問題解決と対露政策に関して、アメリカとEUからセルビアに対してかつてなく大きなプレッシャーが掛けられている中で外相に復帰した。具体的には、コソボとの関係正常化合意の早期成立と、ウクライナ問題を巡る対露制裁への参加がセルビアには求められている。ダチッチとロシアの蜜月関係は広く知られているが、欧米の外交当局者の間では、ダチッチがこれまで見せてきた建設的姿勢を評価する声も聞かれる。ダチッチはプラグマティックな政治家であり、ロシアとの緊密な関係を堅持する一方で、欧米主要国とのパイプも構築してきた。コソボとの間の関係正常化プロセスの枠組みとなっている2013年のブリュッセル合意は、当時首相であったダチッチがサインしたことで成立した。ダチッチは4月の選挙の際、セルビアは決して対露制裁に参加しない、と主張して選挙戦を展開した。これはSPSと連立を組むブチッチにとっても都合が良いといえる。ブチッチは、仮に欧米の圧力に抗して今後も対露制裁への不参加を貫くことになったとしても、その責任をダチッチと共有し、ダチッチとSPSの存在を欧米に対する言い訳として用いることが出来る。
追放された腹心
今回の組閣における最大のサプライズは、長い間ブチッチの腹心として彼を支えてきた重要閣僚が政権を去ったことであった。具体的には、ミハイロビッチ(Zorana Mihajlović)鉱業・エネルギー相、ステファノビッチ(Nebojsa Stefanović)国防相、ブリン(Aleksandar Vulin)内相の3名がそれにあたる。この3名が政権から追放された理由の一つとして、彼らが欧米(ミハイロビッチ、ステファノビッチ)とロシア(ブリン)のいずれか一方にあまりにも肩入れしすぎていたという背景があり、ウクライナ問題が重要度を増す中で、バランス外交を志向するブチッチがこうした人物を政権内に抱えることを好まなかったという指摘がある。これは確かに一理あるが、その他にも、個別の事情があると思われる。
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