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スレブレニツァの虐殺30周年:追悼式典に刻まれた認識の溝

7月11日、ボスニア・ヘルツェゴヴィナのスレブレニツァ(Srebrenica)では、1995年にボスニア・セルビア人勢力によって8,000人以上のボシュニャク(イスラム教徒)の男性や少年が殺害された虐殺から30周年を迎え、ポトチャリ(Potočari)の追悼記念センターで追悼式典が執り行われた。新たに身元が特定された7人の犠牲者が埋葬される一方、この事件を「ジェノサイド」と認定することを巡り、国際社会とセルビアとの間の深い溝が改めて浮き彫りとなった。

式典には数千人が参列し、遺族や国内外の要人が犠牲者を悼んだ。式典には、欧州連合(EU)からアントニオ・コスタ(António Costa)欧州理事会議長やマルタ・コス(Marta Kos)拡大担当欧州委員をはじめ、クロアチアのプレンコヴィッチ(Andrej Plenković)首相、モンテネグロのミラトヴィッチ(Jakov Milatović)大統領らが出席し、国際社会の連帯を示した。なお、日本の外務省は、岩屋毅外務大臣がエルメディン・コナコヴィッチ(Elmedin Konaković)ボスニア外務大臣宛てに、スレブレニツァ事件の犠牲者及び遺族とボスニア国民に対する哀悼と連帯を表する書簡を発出したと発表した。

ウルズラ・フォン・デア・ライエン(Ursula von der Leyen)欧州委員長は声明で、スレブレニツァの虐殺を「欧州の集合的記憶における最も暗い章の一つ」と位置づけ、「EUはいかなるジェノサイドの否定、歪曲、矮小化も断固として拒絶し、非難する」と強調した。コスタ議長もまた、「ジェノサイドの否定や歴史修正主義、責任者の美化が欧州に存在する余地はない」と述べた。これらの発言は、2024年5月に国連総会で7月11日を「1995年のスレブレニツァにおけるジェノサイドを省察し追悼する国際デー」として制定する決議が採択されたことを受けたものと言える。

これに対し、セルビア政府関係者は式典に参列しなかった。アレクサンダル・ヴチッチ(Aleksandar Vučić)大統領は自身のSNSアカウントを通じて犠牲者の遺族に哀悼の意を表明したものの、この事件を「ひどい犯罪(horrific crime)」と表現するに留め、「ジェノサイド」との言及を避けた。

アナ・ブルナビッチ(Ana Brnabić)国会議長も同様に、「スレブレニツァで起きたのはジェノサイドではなく、恐ろしい戦争犯罪だ」との見解を示した。

セルビア国内では、野党である新民主党(New Democratic Party of Serbia)が7月10日、「スレブレニツァにジェノサイドはなかった」とする公式見解を国として明確に打ち出すべきだと主張するなど、ジェノサイド認定に対する抵抗が根強く存在する。

虐殺から30年という節目を迎え、犠牲者の追悼と記憶の継承が国際的な責務として確認される一方で、セルビア指導部が示す歴史認識は、地域の真の和解に向けた道のりが依然として険しいものであることを示している。

(アイキャッチ画像はポトチャリのスレブレニツァ事件追悼施設、出典:Wikimedia commons CC BY-SA 4.0 )

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