米英がNISを制裁対象に指定:セルビアはロシア資本の完全排除を迫られる

1月10日、米国財務省は、ロシアのウクライナ侵攻に対する新たな制裁措置として、セルビア最大の石油・ガス会社であるセルビア石油産業(NIS)を制裁対象にすることを発表した。これを受け、セルビアのヴチッチ(Aleksandar Vucic)大統領は、NISの事業継続にはロシア資本の完全撤退が不可避であるとの認識を示した。

ヴチッチ大統領は昨年12月に、米国及び英国がNISを制裁対象とする可能性について言及していた。

参考記事

米国財務省プレスリリースによれば、米国による今回の制裁措置は、ロシアの主要石油生産・輸出企業であるガスプロムネフチとスルグトネフチェガスを対象としており、これらの企業が直接・間接を問わず50%以上を所有する子会社も制裁対象となっている。米財務省のイエレン(Janet L. Yellen)長官はこの新たな制裁措置について「ロシアの残虐かつ違法なウクライナ侵攻の資金源に対する包括的な措置である」と説明している。

なお、10日には英国財務省も米国と同様の制裁措置を発表している。

米国の制裁措置を受けて記者会見を行ったヴチッチ大統領は、「NISは当面の通常営業は可能だが、所有権移転計画を即座に開始し、米国財務省外国資産管理局(OFAC)の承認を得る必要がある。米国が設定した猶予は2月25日までの45日間であり、それまでの間にロシア資本をNISから完全に排除する必要がある。米国は、ロシア資本の低減ではなく排除を要求している」と述べた。

ヴチッチ大統領は以前、NISに対するガスプロムの所有権を49%以下に低下させることで制裁を回避する可能性を示唆していたが、米国側はそうした対応を受け入れなかったものと見られる。

出典:RTS Youtubeチャンネル

NISの現在の株式保有構造は、ロシアのガスプロムネフチが50%、ガスプロムが6.15%を保有し、ロシア資本が過半数を占める。セルビア政府は29.87%、残りの13.98%はその他の少数株主が保有している。2008年、セルビア政府はガスプロムネフチに対し、当時セルビア国有であったNIS株式の51%売却しており、その際の売却額は4億ユーロであった。この取引は当時、市場価値よりも著しい安値での売却であるとしてセルビア国内外からの批判を浴びていた。この取引は、当時ロシアが計画していたサウスストリーム・ガスパイプラインのセルビア通過とのパッケージであったと考えられている。

ヴチッチ大統領は「他者の財産の敵対的買収は望まない」との立場を示し、プーチン(Владимир Владимирович Путин)ロシア大統領との直接協議を行う意向を表明した。ヴチッチ大統領はまた、自身のInstagramアカウントへの投稿の中で、「米国の新政権に対し、この決定を再考するよう要請する」と述べ、間もなく就任するトランプ(Donald J. Trump)米国次期大統領に対し、NISへの制裁措置を考え直すよう求める意向を表明した。

 
 
 
 
 
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現在セルビアは主にロシアとイラクから原油を輸入しており、その大半はクロアチアの石油パイプライン運営会社ヤドランスキ・ナフトヴォド(JANAF)が運営するヤナフ・パイプラインを通じて輸送している。ヴチッチ大統領は昨年、米国がNISを制裁対象とした場合、NISはヤナフ・パイプラインの使用が不可能となり、それによってセルビアへの石油供給が途絶する可能性があると述べていた。

2022年のロシアによるウクライナ侵攻以降、EUがロシアのエネルギー産業に対する制裁を課したことで、セルビアはNISの所有権を巡り困難な立場に置かれていた。EUの制裁時には西バルカン諸国を例外とする条項が設けられていたが、今回の米国による制裁にはそうした例外は認められておらず、セルビアはより直接的な対応を迫られる形となった。

NISはセルビア国内だけでなく、ボスニア・ヘルツェゴヴィナ、ブルガリア、ルーマニアでも事業を展開している。米国の制裁発表を受け、ベオグラード株式市場におけるNISの株価は0.52%下落し、761ディナール(6.66ドル/6.50ユーロ)で10日の取引を終えている。

この制裁措置により、セルビアは国家の重要エネルギーインフラの所有権再編を迫られることとなり、国内のエネルギー安全保障に重大な影響を及ぼす可能性がある。ヴチッチ大統領は、ロシアがウクライナへ侵攻した2022年の時点でNISを再国有化する可能性について言及していた。

(アイキャッチ画像出典:Shutterstock)

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