米国務省が西バルカン情勢に関する特別ブリーフィングを開催
8月5日(米国東部標準時)、米国務省のエスコバル欧州・ユーラシア担当次官補代理(Gabriel Escobar, Deputy Assistant Secretary, Bureau of European and Eurasian Affairs)が西バルカン情勢に関するオンライン特別ブリーフィングを行った。
冒頭、「ロシアによるウクライナ侵攻は、欧州の安全保障におけるNATOの中心的な役割を確固たるものとした。西バルカンにおいて3カ国がNATO加盟国として貢献を行っていることは喜ばしい。また、全ての西バルカン諸国が国際場裡において米国及びEUと協調した投票行動を行ってきている。過去数ヶ月間、EUとNATOは共に拡大による強化を図ってきた。EU及びNATOの拡大はロシアの侵攻に対する対応の一環である。」と述べたうえで、西バルカン地域のジャーナリストからの質問に答えた。
主な質問と回答は次のとおり。
セルビア・コソボ関係
Q:ボレルEU上級代表は、コソボはブリュッセル合意に従ってセルビア系自治体連合を創設する必要があると述べているが、米国の立場はEUと同じものか?
A:ボレル上級代表に同意する。米国の立場はEUと完全に一致している。セルビア系自治体連合創設は既に合意されたものであり議論を進める必要がある、という点において米国の立場は明確である。ただしセルビア系自治体連合は、コソボ憲法に矛盾したり、コソボの機能性を阻害したり、「国家内国家」となるべきではない。とはいえ、欧州においては、憲法の枠内で少数派民族が自身の文化遺産や言語を保護するためのモデルが既に多数存在しており、セルビア系自治体連合創設に向けた参考となるだろう。ブリュッセルでの首脳会談でこの問題が議論されることを期待している。
Q:コソボがブリュッセル合意に定められたセルビア系自治体創設を拒否している問題について、ボレルEU上級代表は、EUにはコソボに合意履行を強制させる手段が無いと述べているが、米国にはそのような手段はあるのか?
A:米国が考えるセルビアとコソボの長期的な将来の姿は両者のEU加盟であり、それ故に米国はEUが仲介するセルビア・コソボ間の対話を支持している。米国は、過去に結ばれた全ての合意は履行されねばならないという立場であり、その中にはセルビア系自治体連合創設も含まれる。今月中旬に予定されているセルビア・コソボ首脳会談において、この問題が議論されることを期待している。
コソボのクルティ首相とオスマニ大統領が先日訪米し、ブリンケン国務長官と会談した。ブリンケン長官はコソボの独立、主権、領土一体性に対する米国の変わらぬ支持を伝えたが、同時に、西バルカンの地域的安定を強化することに取り組むよう働きかけた。またブリンケン長官は、セルビア系自治体連合創設を含む、過去の合意履行の必要性を強調した。
今月のブリュッセルでの首脳会談が成果を挙げることを期待している。
Q:(コソボ側が実施を予告している、セルビア側発行IDとナンバープレートでのコソボ領内での通行を認めないとする措置に関し)措置の実施は9月1日まで延期されたが、これは問題の先送りであって解決策にはなっていない。はたして一ヶ月の間に何かが変わるのか?
A:これは単純な先送りではなく、恒久的な解決策を見出すための機会を創出したものである。先の合意(注:2021年9月に今回と同様の問題が発生した際、EUの仲介により、ナンバープレートの国旗や国章部分をシールで隠すことで相互の領域内での相手方ナンバープレート使用を認めた暫定合意を指す)は一時的かつ時限的な措置であり、恒久的な解決策のためにはセルビア側が提案を行う必要がある。しかし同時に、セルビア・コソボ間の関係改善、移動の自由の確保、欧州統合の推進といったより広範な議論が行われることを期待したい。今月予定されているセルビア・コソボ首脳会談は、ナンバープレート問題だけでなく、より広範な問題の解決について前進を図る機会である。
Q:(コソボ政府が改めて措置の実施を予定している)9月1日に向けて、ID及びナンバープレートの問題についてどのような妥協があり得るか?
A:両当事者自身が何らかの決定を下すことを期待している。それがEUが仲介する対話の目的である。確かにブリュッセル合意では移動の自由に関する一定の方針が定められているが、それ以外にも移動の自由を規定する合意はある。重ねて申し上げるが、ナンバープレートにシールを貼るという措置はあくまで暫定的なものでり、それに代わる恒久的な措置が必要である。
そのような恒久的解決策は、コソボ北部に住む人々の暮らしを大きく変えるようなものだとみなされるべきではない。単純な事実として、コソボ領内で運用される車両はコソボの法に則った形で登録・運用されることが期待されている。とはいえ、コソボ内、あるいはセルビアとコソボ内だけではなく、西バルカン地域全体、欧州全域においても移動の自由の機会を提供するべきである。
求められているのは西バルカンと欧州における安定と統合を生み出す前向きな解決策であり、それは可能だと考えている。
Q:コソボが独立を宣言した後、あるいは国際司法裁判所がコソボの独立宣言は国際法に違反しないと決定した後、欧米はセルビアに対しコソボ独立を承認するよう強制すべきだったのではないか?
A:米国にとってコソボ問題は未解決の問題ではない。米国はコソボの主権と独立を完全に認めており、コソボは米国の緊密なパートナーである。コソボに関する米国の願望はコソボの人々の願望と同じである。すなわち、全てのEU加盟国からコソボが承認され、コソボからEU圏内へのビザ無し渡航が直ちに実現され、全ての国際機関へのコソボの加盟機会が開かれるということである。それは可能だと確信しているし、そのような方向に向かっている。
しかし、コソボの未来はEUが仲介するセルビアとの対話を通じて開かれることになるだろう。コソボは欧州内にあり、コソボ人は欧州人である。コソボの願望はEU加盟国になることである。対話の目的はセルビアとコソボの関係正常化であり、それは手の届く範囲にある。米国はセルビアとコソボの双方に対して、建設的に対話に取り組むよう継続的に求めているが、対話はコソボだけではくセルビアにとっても未来の鍵を握っている。
政治的問題を解決する際に最も重要なことは、欧州において最も成長速度が速くダイナミックな地域である西バルカンの、経済面でのポテンシャルを解き放つことである。西バルカン地域内での和解、経済統合、人・モノ・資本・サービスの移動の自由は全て、主権と独立を強化し、地域の全ての国に活力を与えるものである。
Q:コソボのオスマニ大統領は、ロシアがセルビアを通じてコソボやボスニアの不安定化を図っていると主張しているが、米国はそのような懸念を共有しているか?先日コソボ北部で発生した事態に関して、ロシアの関与を示す兆候はあったのか?
A:ごく少数の例外を除き、バルカンで起きていることはバルカンの中に原因がある。コソボ北部で発生した出来事はセルビアとコソボの間の問題であり、それ故に、双方の指導者がEU仲介の下で会談を行いコソボ北部に関する立場の相違を解決することが非常に重要である。それはナンバープレート問題についての恒久的解決策、電力問題ロードマップの履行、行方不明者問題に関する合意、セルビア系自治体連合の議論を含むものとなるだろう。我々は、西バルカンにおいて外交と建設的対話を通じて解決できる問題に集中すべきである。
ロシアは何らかの役割を果たそうとするだろうが、西バルカン域内で不安定化を模索している政治家等に比べれば、ロシアの役割はさほど重要なものではない。
Q:コソボ戦争犯罪特別法廷について米国はどう見ているのか。被告人のコソボ領内での拘禁を認めない点や、訴因変更によって裁判が長期化している点について不公平だとは考えていないのか?
A:特別法廷の仕事ぶりについてコメントすることは差し控えたい。米国は特別法廷を支持しているし、旧ユーゴ紛争の被害者のために正義がなされることを支持しているが、特定の被告や起訴状に関する質問は特別法廷に委ねたい。
ただし、90年代に発生した戦争犯罪の加害者に法の裁きをもたらすという点で国際法廷はこれまでに大きな成功を収めており、米国は今後も支援を続けていく。
北マケドニアのEU加盟交渉
Q:北マケドニアはブルガリアとの合意に基づきEU加盟交渉を開始したが、実際の交渉作業はまだ始まっていない。合意によれば、加盟交渉は北マケドニアの憲法改正後に始まるものとされているが、国内では憲法改正に対する反対が大きく、(憲法改正の是非を問う)国民投票実施の要望が強まっている。この問題に関する米国の立場はどのようなものか? またブルガリアが北マケドニアの加盟交渉に対して拒否権を発動しない、あるいは二国間の歴史問題を加盟交渉の枠組みに入れ込まないという保証はあるのか?
A:北マケドニアは米国にとって二国間及びNATOの枠組みを通じた重要なパートナーであり、そのことは本年6月にワシントンで行われた米国と北マケドニアの二国間戦略対話の際にも伝えている。「北マケドニアは米国にとって偉大なパートナー、誠実な友人、そして欧州大西洋共同体の強固な協力者」というのが米国の立場である。北マケドニア人は歴史的にも文化的にも欧州人であり、また経済的には欧州市場において、ITから運輸まであらゆる分野で重要な貢献を行っている。
EU加盟交渉に関して言えば、北マケドニアは前進する権利を得たと言える。北マケドニアは非常に困難な改革を成し遂げ、また現在もそれを継続している。米国にとって、北マケドニアの言語や文化的アイデンティティの問題は問題では無い。米国としては、北マケドニアが隣国との建設的な対話を続け、可能な限り速やかにEU加盟交渉を進めることを期待したい。米国は、そのようなプロセスにおいて北マケドニアを支援していく。
ボスニア・ヘルツェゴビナ情勢
Q:ボスニア情勢に関し、シュミット上級代表が強制しようとしている選挙法改正を米国は支持しているのか? 改正に反対するボシュニャク系住民や政治家の反発をどう見ているか?
A:上級代表はデイトン合意の重要な要素であり、米国及びクイント(米、英、独、仏、伊)はシュミット上級代表を支持している。上級代表には必要な解決策を強制する権限が与えられている。ボスニアに安定と統合をもたらすために必要な上級代表の決定を実行するうえで、米国は上級代表と緊密に連携している。
選挙プロセスの変更に関する最近の決定に関しても、米国はこの決定を支持している。これらの変更は、ヘイトスピーチを抑制し、党派的利益のための公共資産の利用を規制し、透明性を向上させるものである。しかし、この変更に関して一部の政治家や政党が用いているレトリックには同意できない。我々は次回の選挙をボスニアの民主主義を強化する機会として利用し、権力の移行を平和裏に行う必要がある。
それ故に、米国は如何なる形であっても紛争や戦争に言及することに反対である。ボスニアで戦争が起こることは無いことを重ねて強調したい。国際社会はボスニアの安全を維持することで結束している。我々は平和維持部隊をボスニアに展開しており、今後もその駐留を継続する。ボスニアの全ての政治指導者に対し、国内の緊張を高めるような発言を慎むよう求めたい。
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